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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

真夜中の語らい

        八月十一日    -壱-

 

 日本列島を幾度かヒッチハイクで縦断していた俺だが、沖縄だけはまだ一

度も訪れた経験は無かった。


 一度はのんびり・・・・・と、夢にまで見ていたのにその沖縄に一泊

もせず素通りしてしまった。


 そして沖縄本島よりはるか南に、それも台湾のすぐ東に石垣島が位置

していることに初めて気がついた俺。


 青い海に囲まれた八重山群島、その中の一番大きな島、それが石垣島

だった。



  我々を乗せた沖縄丸がその石垣島に到着したのは、八月十一日朝6:3

0。


 貧弱な港だが、紛れも無い石垣港。


 早朝のせいか、人の姿もまばらな上、先日の台風一過が直撃した事

で、木々と言う木々は傾き、道路の一部はアスファルトが剥がれて、赤土が

はみ出している。


 かなりの被害が予想される。
 強風と大雨に洗われたせいか、山

の緑も家々もすっきりとした姿を見せている。


 空は信じられないほど青く、白い雲が美しく浮かんでいた。


    「ひろみの家、無くなってんじゃぁ・・・・?」


    「こんな台風、ここではいつものことさ!」



  港の前の広場を横切り、狭い道に入った。


    「近道さ!」


 今日戻る事を両親には知らせていないのだろうか?迎えは誰もいなか

った。


 洲鎌ホテルは、すぐ近くにあった。


 ホテル兼住宅には、両親・五女の洋子ちゃんそして従業員のおばさん

たち、そしてフロントの純子ちゃんが集まってくれた。


    「こんにちわ!乾と言います。お世話になります。」


    「疲れたでしょ!」


    「船酔いがきつくて・・・・大変でした!」


    「良く来てくれました。ゆっくりして行ってください!」



  ホテルのオーナーで和子の親父さんに挨拶を済ませた後、310号室に

部屋を用意してくれた。


 まだ中学生の洋子は、甘えん坊でのんびりしている”ひろみ”とは違

ってなかなかしっかりしていて、ホテルを親父さんに代わって取り仕切って

いる。


 また一人、妹が増えた。



  旅の疲れから、午前中ベッドで休んだ後、和子の提案で午後から石垣島

一周のドライブに行く事になった。


 ホテルのライトバンを借りて、洲鎌家の三人娘の命を預かる事になっ

た訳だ。


 沖縄でキープライトを経験しておいたおかげで、スムーズなドライビ

ング。



  ホテルを出ると左に道をとった。


 台風一過のため道路が決壊していたり、軟弱になっているという事で

ゆっくりと車を走らせた。


 台風の様子を姉貴たちに洋子が説明しながら、久しぶりの再会に喜ん

でいる。



  案の定、台風のおかげで道は悪路と化していた。


 しかし、台風の置き土産はそればかりではなかった。


 海の色の鮮やかさ、透き通るような空の青さ、そして山の緑の美しさ

に見とれることになる。


 石垣島に唯一ある飛行場にも足を運んだ。


 飛行機の姿は見る事が出来なかったが、かなりの旅行者や地元の人た

ちがお土産をあさっていた。



  和子の話だと、飛行機がつくたびにホテルの客引きのために車でよく来

たという。


 洋子ともすぐ仲良く慣れたし、タイミングの良い島内半周ドライブと

なったようだ。


 これからの何日かの石垣島滞在で、どれほどこの二人の妹達に楽しい

思いをさせてもらった事か。

                 

                     *



  ホテルと言う仕事、傍目で見ているほど楽な商売ではないらし

い。


    「ホテルをはじめて、まだ日が浅いのよ!親父一人が言い出し

      て、自分一人でやるから、お前らには迷惑掛けい・・・・・・

      ってはじめたのよ!」


    「・・・・・・・・。」


    「だから母さんは今でもほかで洋品店をやってて、おやじのホ

      テルを手伝おうとしないのよ。それが・・・私ら娘の所へくる      
      んだから・・・。」


    「・・・・・・・・・。」


    「上の二人の妹達だって、ホテルを継ぐのを嫌がって家を飛び

       出したんだし、ひろみも洋子もホテルだけは嫌だって言って

       たわ!」


 と、和子はホテルの大変さを一思いに喋った。

 

 ひろみが俺の田舎に来た時、「あんな広い部屋で寝れて・・・・・気持ち

 良かったわー!」と、喜んでいたのが大げさではなかった。


 彼女達に与えられている部屋と言ったら、それこそ奥に追いやられて

しまい階段の下で眠る事もしばしばとか。


 満足に熟睡できないのが現実らしい。


 食事も一家全員揃ってとる事も無く、時間に追われる毎日が続くとい

う。



  それでも洋子は、文句を言いながらも楽しそうにテキパキとホ

テルの仕事をこなしていく。


 見ていると、ホテルの女主人と言っても言い過ぎないほど、はまって

いるからビックリしてしまう。


 洋子は只今中学生。



  ホテルには夕方戻ってきた。


 洋子にとっては、良い息抜きになったようだ。


 夕食はホテルの食堂だった。


 夕食の時、少し暇になったのか親父さんと一緒に食事をとる事になっ

た。


    「ビールでも飲むかい!」


    「はー!頂きます。」


    「忙しくて、構ってやれないけど・・・ゆっくりしていきなさ

い。」


    「有難うございます。お言葉に甘えさせてもらってます。」


    「これからどこへいくんだい?」


    「台湾です。」


    「すぐ近くだからね。本島より近い。」


    「そうなんですね。こんなに近いとは知りませんでした。」


 俺の親父と一緒で、ちょっとばかり照れ屋さん。


 ビールを注いでくれた。



  この所忙しくなり始めているとかで、ゆっくりとは話し込んではいられ

なかった。


 親父さんは夜になると、いつも従業員を車で送っていくのだが、この

日はお客さんたちと飲んでいて、車の運転が俺に廻ってきた。


 従業員達を送っていった後、ビアガーデンへ行ってみようということ

になって、ドライブするが、残念な事にここも台風の影響を受けていて、断

水の為店を閉めていた。


    「暑い夜、若者は涼しい外で夜を明かすのよ。」


    「・・・・・・。」


    「楽しみがそんなにないから。」


 夜遊びしている若者をライトで照らしながらホテルに戻ると、我々も

 夜遊びに出ることになった。


 断水の為か休んでいる店が多く、近くのスナックをやっと見つけただ

けだった。



  ビール一本で、0:00近くまで話し込んでホテルに戻ってビックリ。


 ひろみと洋子がまだ起きていた。


    「親父はお客さんたちと飲みに出たし、お袋は寝ちゃった

よ!」


 と、洋子が和子に話した。


 それが珍しい事ではなく、いつものことのように話すのである。



  洋子とひろみは、両親のいなくなったこれからが、自分達の時間だとで

も言う様に、ロビーのソファに座り込んで足を持ち上げ説明する。


 どうやら洋子がひろみから東京の情報を聞き出しているところだっ

た。


 そこで我々も二人の中に入り、四人してAM3:00頃まで話がはず

んだ。



  どこまで話が続くのかと心配していると、親父さんがお客さんたちを連

れて帰って来た。


 洋子は親父さんの顔を見ると、条件反射のように自分の部屋へ、ひろ

みと和子と俺は306号室へ移って話の続きをはじめたが、さすがに3:3

0やっと自分の部屋(301号室)に戻った。



  学校から戻るとすぐホテルの仕事を手伝い、0:00を過ぎて子供達の

時間が訪れて、AM3:00頃就寝。


 これが洋子たちの一日。


 洋子たちが夜遅くまで起きている事にたいして両親は文句をつけない

替わりに洋子たちは朝の早い事に愚痴をこぼさない。


 そんな生活に俺も楽しく引き込まれていく。


 もうとっくに十二日の朝が、すぐそこまで迫っていた事に、気がつく

暇もなく過ぎて行く。


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